馬の体重は季節で変わる!?~馬は季節を感じて生きている~

 馬を管理していると、「最近、少し太ったかな」「この時期になると体重が減る気がする」と感じることがあるかもしれません。馬の体重は飼料摂取量や運動量によって決まるものと考えられがちですが、実は馬の体は私たちが想像する以上に季節の変化に敏感に反応しています。近年の研究により、競走馬の体重は季節によって変化することが明らかとなり、その背景にはエネルギー代謝やホルモンの働きが深く関わっていることが分かってきました。

競走馬の体重は一年中同じではない

 JRAの高橋らは、02年から14年に出走したJRA所属競走馬(延べ約63万頭)の出走時体重を解析し、季節によって体重が変化することを報告しています。牡馬やセン馬では夏に最も軽く、秋から冬にかけて重くなることが分かりました。一方、牝馬では春に最も軽く、秋に最も重くなるなど、性別によって体重変化のパターンが異なることも明らかとなっています。年間を通して比較的厳密に管理されている競走馬においても、このような季節的な体重変化が認められることは非常に興味深い点です。

 高橋らは複雑な統計手法を用いて、先の結果を分析しています。本稿では、87年から25年に出走したJRA所属競走馬(延べ約66万頭)を対象に、季節別の出走時体重を比較しました(図1)。ただし、2~3歳は成長による増体の影響が残ると考えられるため、4歳以上の競走馬を対象としました。結果、牡牝ともに夏に最も体重が軽くなることが分かりました。また、牡馬では秋と冬、牝馬では冬に体重が重くなることが確認されました。統計手法や対象馬が異なるため、高橋らの報告とは一部で結果が異なります(表)が、両方の成績から競走馬の体重は春から夏にかけて軽くなり、秋から冬にかけて重くなると言えるでしょう。

なぜ季節によって体重が変化するのか

 このような体重変化は、単純に「食べ過ぎた」「運動量が少なかった」という理由だけで説明できるものではありません。馬の体そのものが、季節の変化に応じてエネルギーの利用方法や貯蔵メカニズムを変化させている可能性があります。野生馬やポニーの研究では、日照時間や気温などの環境要因に応じて基礎代謝活動が変化することが報告されており、サラブレッド競走馬においても同様の季節適応機構が受け継がれていると考えられます。

 実際に、野生馬やモウコノウマ、シェトランドポニーでは、冬季に心拍数や体温、活動量を抑えることでエネルギー消費を削減し、冬を乗り切る生理的反応が知られています。馬は日照時間や気温の変化を受容体で感知し、それに応じてホルモン分泌やエネルギー代謝のスイッチを切り替えています。特に秋から冬にかけて日照時間が短くなると、体は厳しい季節に備えてエネルギーを効率よく蓄えるための代謝調節を開始します。このような生理的な自己防衛および適応機能が、季節による体重の増減という形で現れているのです。

インスリンにも季節性がある

 近年では、馬の糖代謝や内分泌系にも明確な「季節性」が存在することが明らかとなっています。インスリンは血液中の糖(グルコース)を細胞内に取り込ませる重要なホルモンであり、筋肉や脂肪組織にエネルギーを供給する働きを担っています。また、インスリン機能の異常や過剰分泌は、蹄葉炎などの疾患とも深く関係しています。

 25年にイギリスで報告された研究や近年の臨床研究では、血液中のインスリン濃度や糖負荷に対する応答性が季節の影響を受け、特に冬季において他の季節よりも有意に高くなることが示されています(図2)。季節による日照や気温の変化は、膵臓のインスリン感応性に変化をもたらし、同じ量の糖分を摂取した場合でも、冬場にはより多くのインスリンが分泌されやすい状態が生じます。

 インスリンは、食事によって上昇した血糖を筋肉や脂肪細胞へ取り込ませるだけでなく、余ったエネルギーを脂肪として蓄積する働きを持っています。そのため、インスリンはまさに「エネルギーを貯蔵するホルモン」といえます。

 このことから、季節の変化はホルモン分泌やインスリン動態を介してエネルギー代謝を変化させ、最終的に体重の季節変動をもたらしている可能性があります。

季節による代謝の変化が体重を左右する

 冬季にインスリン応答性が高まるという現象は、馬の体が寒冷な環境下でエネルギーをより効率的に利用し、体内に蓄積しようとする生理的適応の表れと考えられます。インスリンが持つ余剰エネルギーの脂肪合成促進作用を考慮すると、冬場におけるインスリン濃度の変化は、秋から冬にかけて体重が増加・維持されやすくなる季節的体重変化を解明する上で、一つの重要な生理学的要因となります。一方で、生産地では冬季の寒冷暴露によって体温維持のためのエネルギー消費が増加し、体重が減少しやすいことが一般的な知見として知られています。そのため、「冬季に増体する」と聞くと違和感を覚える読者も少なくないかもしれません。しかし、本稿で述べているのは、馬の体が季節の変化に応答してエネルギーを蓄積しようとする生理的な方向性についてです。特に北海道などの生産地では、寒冷環境によるエネルギー消費の増加がこの生理的な増体傾向を上回る場合もあり、実際の体重変化は飼養環境や管理条件によって大きく左右されます。

おわりに

 馬は日照時間や気温の変化を体全身で感知し、エネルギー代謝やインスリンの働きを柔軟に調節しながら、それぞれの季節に適応して生きています。その生理的な適応結果として、体重にも規則的な季節変動が現れるのです。

 季節の変わり目に体重が少し増えた、あるいは減ったからといって、直ちに管理上の問題を意味するわけではありません。このような馬本来が持つ生理的な季節適応メカニズムを正しく理解し、飼養環境などを総合的に考慮しながら体重を評価していくことが、健康に管理するためには重要であると考えられます。

日高育成牧場
首席調査役
松井 朗