第7回ロドコッカス・エクイ国際ワークショップの開催

はじめに

 本年7月13日~15日にかけて、ロドコッカス・エクイ国際ワークショップが静内エクリプスホテルにおいて開催されました。本ワークショップは、世界各国のロドコッカス・エクイ感染症の研究者が一堂に会する国際会議であり、今回は1986年にカナダのゲルフ大学で開催された第1回から数えて7回目、アジアでは初めての開催となりました。

 大会長は、本病の研究において世界的に著名な北里大学名誉教授の髙井先生が務められ、日本を含む13カ国から34名の研究者が参加しました(写真1)。なお、筆者も委員ならびに事務局として初めて本ワークショップに参加しました。

 そこで、今回の馬事通信では、ワークショップで報告された最新の研究成果の中から、その一部をご紹介したいと思います。

免疫療法の最前線

 ロドコッカス・エクイ感染症は、症状が進行してから発見されることも少なくなく、また長期間の治療を必要とするため、本来は発症を予防することが最も有効な対策と考えられます。しかし、1923年に本病の原因菌であるロドコッカス・エクイが発見されてから100年以上が経過した現在においても、いまだ有効なワクチンは実用化されておらず、さまざまな研究が続けられています。

 今回のワークショップでは、新型コロナウイルス感染症のワクチンにも用いられたmRNA技術を応用した新たな試みとして、ロドコッカス・エクイに対して効果を示す抗体の遺伝情報を感染部位である肺胞の上皮細胞に導入し、その細胞自身に抗体を作らせることで感染を防御する方法が発表されました。発表では、この技術が実際に利用可能かどうかという基礎的な検討だけでなく、子馬を用いた感染実験における予防効果についても報告されました。この方法は、従来のワクチンとは異なる仕組みによって子馬を感染から守るものであり、ワクチンによって免疫力を高めることが難しい生後間もない子馬にも感染防御力を付与できる可能性があります。実用化までには多くの課題が残されていますが、今後の発展が期待される免疫療法の一つと考えられます。

 また、生後間もない子馬の感染防御には、母馬の初乳から得られる移行免疫に加え、生まれたときから備わっている自然免疫が大きな役割を果たします。本ワークショップでは、生後間もない子馬にロドコッカス・エクイを胃内投与することによって自然免疫を「訓練」し、その後の発症を予防しようとする試みも発表されました。この実験では、1日齢および3日齢にロドコッカス・エクイの生菌(生きている菌)を胃内投与した子馬と、投与しなかった子馬の2群について、28日齢にロドコッカス・エクイを気管内に感染させました。その結果、生菌を胃内投与された子馬5頭では肺炎の発症が認められなかった一方、投与されなかった子馬6頭のうち4頭が肺炎を発症しました。

 この結果から、生菌の胃内投与によって腸管を介して自然免疫が訓練される、いわゆる「訓練免疫」が、発症の抑制に関与した可能性が考えられました。訓練免疫を誘導するために生菌を胃内投与する方法そのものは、誤嚥による子馬への感染や糞便中に排泄された菌による環境汚染などの問題があるため、直ちに現場で応用できるものではありません。しかし、訓練免疫によって本病を予防できる可能性が示されたことは、新たな予防法を開発する上で重要な知見になると考えられます。

多剤耐性株の拡散

 米国の主要な馬産地であるケンタッキー州では、2000年頃から、本病の治療の中心となるアジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬とリファンピシンの両方に耐性を示す株、すなわち多剤耐性株が増加し、治療に大きな影響を及ぼすようになってきました。

 この多剤耐性株は海を越えて拡散し、2016年以降にはアイルランド、2022年以降には日高管内においても検出されるようになったことが報告されています。今回のワークショップでは、新たにアルゼンチンにおいて多剤耐性株が検出されたことが報告され、その脅威が米国だけでなく世界各地に広がりつつある現状が明らかとなりました。現在、多剤耐性株に対してはJRA競走馬総合研究所も参加する国際的な監視体制が構築されています。

 また、本ワークショップでは、抗菌薬の使用方法に関する発表も多く行われました。その中でも、アジスロマイシンとリファンピシンを併用した際に、リファンピシンの影響によってアジスロマイシンの体内濃度が低下することを報告した発表は大きな注目を集めました。これまで本病の治療の中心として用いられてきた併用療法の有効性について改めて検討を促す内容であったことから、予定された討論時間を大幅に超えるほど激しい議論が交わされました。本ワークショップでは明確な結論に至りませんでしたが、長年用いられてきた既存の治療法についても、現在の科学的知見や技術を用いて改めてその有効性を検証する必要性が示されました。今回の議論が、より効果的な治療法を検討するための良いきっかけとなることが期待されます。

さいごに

 本ワークショップ終了後には、ワークショップに参加した2名の外国人研究者による特別講演が、生産地の獣医師を中心とした100名以上の参加者を迎えて開催されました(写真2)。

 本病による被害を減らしていくためには、今後もさまざまな角度から研究を続けていく必要があります。今回、世界各国の研究者が日高の地に集まり、最新の知見を共有するとともに活発な議論を行えたことが、今後のロドコッカス・エクイ研究のさらなる発展につながることを期待し、今回の記事を終わらせていただきたいと思います。

日高育成牧場
上席調査役 丹羽秀和