骨盤骨折の馬の管理
骨盤骨折
骨盤は、腸骨・恥骨・坐骨の3つの骨から構成され、この3つの骨を合わせて寛骨と呼びます。腸骨・恥骨・坐骨が結合し、大腿骨と関節する部位を寛骨臼といい、股関節を形成しています。骨盤は、寛骨臼を通して、後肢の力を脊柱に伝える大切な役割を担っており、大きな筋肉が多数付着しています。馬の骨盤骨折は、馬房での転倒などの外傷性事故だったり、競走馬では日々のトレーニングによるストレス骨折だったりが要因となります。一般的に、外科的な整復・治療は不可能であり、馬房内休養による長期の安静が必要となります。その診断は、超音波検査やレントゲン検査といった画像診断がメインとなり、外貌上患肢の殿筋群が委縮します(写真1)。その重症度は、骨折の発症部位によって大きく異なります。今回、われわれの育成馬で骨盤骨折の中でも、特に重症である寛骨臼骨折(写真2)を発症し、繫殖牝馬になるために順調に状態が回復した馬に遭遇したため、こちらに報告させていただきます。


骨盤骨折馬の管理
骨盤骨折馬の管理において、気をつけなければいけない点は大きく3つあるかと思います。
一つ目は対側肢(骨折した骨盤と反対側の後肢)の負重性蹄葉炎です。骨折部位によっては、患肢で体重を支えられず、自ずと対側肢に負担がかかるため浮腫を形成し、最悪の場合、蹄が負荷に耐えられなくなり蹄葉炎を発症します。消炎鎮痛剤(フェニルブタゾン1~2g/日)によって、疼痛をコントロールすることで蹄葉炎を予防することができます。
二つ目は、寝起きや急な動きによる骨折の悪化です。一つ目の蹄葉炎の予防と相反するのですが、痛みを取りすぎると馬が歩きすぎたり、自由に寝起きしたりして骨折が悪化することがあります。骨盤周囲には、太い血管が複数走っているため、骨折によってそれらの血管を損傷すると生死に関わります。そのため、痛みをとれるだけ取ればいいというわけではなく、ある程度疼痛を感じている状態が、馬には申し訳ないですが管理の上ではベストになります。
三つ目は(結腸・盲腸)便秘です。馬房内休養の期間が数カ月にのぼるため、便秘は高い確率で発症してしまいます。便秘による疼痛で横臥してしまうと、上記の理由により重大な問題になります。便秘の発症をなるべく防ぐためには、①給餌量を制限する(骨折の急性期は体重を落としたほうが望ましいため、乾草のみの給餌でよいと考えます)、②水分摂取量を確認し、適切な飲水量を保つ、③敷料を多めにし、転倒を予防する、です。特に給餌については、チモシー乾草(マメ科は腸内でガスを産生しやすいためイネ科が好ましい)を日量体重の1.5%(500㎏の馬であれば7.5㎏/日程度)、可能な限り小まめに給餌することが好ましいかと思います。また、ウォーターカップでは飲水量がわからないので、水桶けを疼痛が激しい時期は複数カ所設置することで(写真3)、飲水量を確認しながら無駄な移動を減らすことができます。また、乾草のみでは塩分が不足しやすいので、鉱塩を設置することで飲水を促すことができます。

本症例は、発症から3週間ほどで対側肢の症状が消失し、自力で馬房内を歩けるようになり、2カ月後には患肢で負重し、対側肢の裏ほりができるようになりました。長期間の小まめな管理が必要ですが、繫殖牝馬を目指して管理してまいります。
日高育成牧場
業務課 主査
井畔貴之