良質な牧草づくり
繁殖シーズンが落ち着き、牧草収穫の季節を迎えました。牧草は馬の健康に不可欠な基盤ですが、昨今は飼料の価格高騰や供給の不安定化に加え、予測困難な気象変動や資材価格の上昇など、生産現場を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした変化の激しい状況下で安定的に良質な牧草を生産するには、長年の経験に「科学的なデータ」を組み合わせることが極めて重要です。本稿では、『サラブレッドのための草地管理ガイドブック』から牧草づくりの要点をおさらいするとともに、日高育成牧場における具体的な取組みをご紹介します。
刈取適期

自家牧草づくりにおいて、最も頭を悩ませるのが刈取適期の見極めです。チモシー一番草の栄養価(可消化養分総量:TDN)と収量は、出穂の進行に伴って大きく変化します。チモシーは「出穂始(全体の10%が出穂)」から「出穂期(全体の50%が出穂)」にかけて、茎葉の繊維質(ADF)が急激に増加する一方で、タンパク質含有率が低下していくことが明らかとなっています(図1)。出穂期を過ぎて開花期に入ると、収量は増えるもののTDNが低下してしまいます。したがって、良質な牧草を確保するための適期は「出穂始から出穂期まで」のわずか数日間に限られます。この適期を逃さない収穫計画が、冬季の栄養管理に直結するのです。
乾燥作業

刈取後の乾燥作業も、牧草の品質を左右する重要な工程です。乾草全体をムラなく含水率15%以下(理想は10~12%)まで下げることができれば、貯蔵中の変質を防ぐことができるとされており、いかに短期間で乾燥させるかが鍵となります。刈取直後の牧草はまだ細胞が呼吸を続けており、含水率が40%以下になるまでの間、体内に蓄えた糖分(フルクタンなど)を消費し続けます。つまり、乾燥が長引くほど呼吸によって貴重な栄養分が失われてしまうのです。これを防ぐためには、テッダー(反転機)を用いて迅速に水分を飛ばす作業が不可欠です。
日高育成牧場では、刈取後にテッダーによる反転作業を1日4回実施することで、迅速な乾燥を徹底しています。また、乾き始めた牧草を反転させる際は、トラクターの走行速度を上げつつPTO(トラクターの動力取出軸)回転数を下げることで、回転の衝撃を和らげ、牧草の損傷を抑えています。さらに、夜間は牧草を列状に集草しています(ウィンドロー:写真1)。これにより、夜露や万一の降雨時でも濡れる範囲を表面のみに留め、牧草の品質低下を最小限に食い止めています。
おわりに


放牧地や採草地の利用、土壌分析など、草地管理に関する基礎知識を網羅した「サラブレッドのための草地管理ガイドブック」は、2026年に増刷版を公開しました(図2)。本書は「北海道施肥ガイド2020」の最新知見も反映していますので、現場での実践にお役立ていただければ幸いです。
日高育成牧場では、牧草水分計(写真2)を活用した含水率ごとの保存・梱包方法の最適化や草地更新など、良質な牧草づくりに向けた取組みを今後も継続してまいります。新たな知見が得られた際には、皆さまに共有できればと考えております。
日高育成牧場
生産育成研究室
根岸菜都子