兵庫で米玉利騎手と小谷騎手がデビュー~もうひとつの物語~

各地で新人騎手がデビューしました。園田・姫路競馬でも2名が騎手人生をスタート。ともに園田競馬場で生まれ育った小谷哲平騎手と米玉利燕三騎手には、勝利にまつわる“もうひとつの物語”がありました。

園田・姫路競馬で15年ぶりとなる初騎乗初勝利を収めた米玉利燕三騎手は、祖父が元調教師、父が厩務員という競馬一家に育ちました。その初勝利は、4コーナーで外から脚を伸ばして5馬身差をつける内容。口取り写真には父や、所属厩舎で昨年同地リーディングの森澤友貴調教師も駆け付け、それぞれに安堵の笑みを浮かべました。
その2週後、ウイナーズサークルでは再び笑顔が咲いていました。
ゴールデンウィーク開催の4月30日の園田メインレースを勝ったのは、バクレツマホウ。騎乗した米玉利騎手はデビュー前、スタートに苦手意識がありましたが、「厩舎実習中に吉村智洋騎手がネックストラップを使っているのを見て、僕もデビューしたら使ってみようと思っていました」と、実戦で使用してゲートを決められるようになっていました。吉村騎手自身は返し馬でしか使っていませんが、先輩騎手が地方全国リーディングに3度輝く秘訣を見て盗もうとした結果でしょう。スタート改善の成果もあり、バクレツマホウは820m戦で好スタート・好ダッシュから2番手につけると、ゴール前で逃げ馬を交わして勝利。堂々と先頭でゴールを駆け抜けた背中を、ある男性は目を細めて見つめていました。
それは、同馬を管理する橋本忠明調教師。
「うちの子と同い年くらいでね。(米玉利)燕三が小っちゃい頃から知っているんです」

「燕三(えんぞう)」という名前は、母が好きな映画の主人公の名前にちなんで付けられたもの
米玉利騎手の父・晴久厩務員は「ハルさん」や「ハル坊」の愛称で親しまれ、かつて橋本忠男厩舎(2017年解散)に所属していました。忠明調教師も父である忠男厩舎で厩務員、さらには調教師補佐として厩舎を支えてきました。かつてはオオエライジンもいた厩舎で、共に汗を流し、どうしたら勝てるのかを熱く語り合っていた2人。その仲間の息子が騎手デビューし、さらには自身の管理馬で勝利を挙げたのですから、胸に迫るものがありました。
「勝利騎手インタビューで燕三が『小さい頃からお世話になっている橋本先生の馬で勝ててすごく嬉しいです』って言ってくれて、泣きそうでした。昔は競馬に興味なかったのに、急に詳しくなったもんなあ。すごく競馬を見ているな、と思っていました」
笑顔でハキハキした米玉利騎手を、こうして可愛がってくれる人たちが周りにはたくさんいます。元騎手の有馬澄男調教師からは「脚が上がった馬でも、筋トレだと思って最後までしっかり追ってきなさい」とアドバイスを受けると、素直に受け止めて実践するのもまた可愛がられる要素。一歩ずつ、着実にステップアップしています。

右は所属厩舎の新子雅司調教師
同地の騎手会長でもある小谷周平騎手を父に持つ小谷哲平騎手の初勝利は、11年前の記憶が甦るものでした。デビュー2日目のその一戦は、逃げる父・周平騎手を直線で交わし去るという内容。
「4コーナーで前を見たら父の黄色い勝負服が見えて、これは抜かさないと、と思い必死に追うだけでした」
しかし、小谷騎手が父の背中を追いかけたのはこの時が初めてではありませんでした。
2014年9月。のちにレディスプレリュード(JpnⅡ)2着など活躍するトーコーヴィーナスに騎乗予定だった木村健騎手(当時)が腰痛のため休養することとなり、重賞・園田プリンセスカップで急遽、父・周平騎手に手綱が回ってきたことがありました。デビューから2連勝中で、重賞でも人気に推されることが明白だった素質馬。周平騎手は数日前からヨーグルトしか喉を通らないほど緊張していましたが、レースではプレッシャーを跳ね除けて見事勝利。自身の重賞初制覇も果たしたのでした。
ゴール直後、「パパー!」と可愛い声援が飛び、子供たちが検量室前に駆け付けました。そこから少し遅れて現れたのが哲平騎手。多くの騎手仲間から祝福され、口取り撮影に向かう父の後ろを追うように歩いていきました。
実はこの時、哲平騎手はレースを見ていませんでした。「家に帰ってきたら、『お父さん勝ったよ』と聞いて、写真に一緒に写ったことは覚えています」。

その背中を無意識で追いかけたのが6歳だった小谷哲平騎手(右)でした
この時、6歳。翌年から憧れのサッカーを習い始め、競馬と関わりのない日々が続きましたが、父に誘われたことがきっかけで中学3年生から乗馬を習うと、すぐに魅了されて父と同じ騎手を志したのでした。
あの時は無意識に追いかけていた父の背中でしたが、時を経て自らの意志で追いかけ、そして追い抜いて初勝利を手にしたのでした。
4月24日には1日2勝を挙げるなど、すでに6勝を挙げる哲平騎手(5月10日時点)。これから本当の意味で父を追い抜くべく、進んでいくことでしょう。
大恵 陽子 (おおえ ようこ)
競馬リポーター。小学5年生からJRAと地方競馬二刀流の競馬ファン。関西を拠点に全国の競馬場で取材。グリーンチャンネル「地方競馬中継」、「アタック!地方競馬」出演のほか、優駿、競馬ブック、うまレター、netkeiba.com、地方競馬全国協会「LADIES JOCKEYS」などで執筆。