松﨑正泰(まつざき・まさひろ)騎手=大井
~27歳で騎手デビュー~

9月17日の大井競馬場で行われた南関東3歳以上による東京記念(S1)は、3番人気マルカンラニ(牡5、父ラニ、母ミヤビセラヴィ=アルデバランⅡ、浦河・金石牧場生産、馬主・斉藤勘介氏、高野毅厩舎)が重賞初挑戦Vを飾りました。鞍上の松﨑正泰騎手も、2006年6月のデビューから20年目での初タイトルを獲得。
松﨑騎手は東京都渋谷区出身の47歳。東京ヤクルトスワローズの本拠地・神宮球場近くで育ったため、小学校からスワローズの観戦ツアーが課外授業に組まれている環境で過ごしました。松﨑ファミリーもそろってスワローズファン。
家族や親戚には馬関係の仕事をしている人はいませんでしたが、父親の高校の同級生が乗馬クラブのインストラクターをしているため、両親が乗馬体験をする際に一緒に行ったことが、馬に興味を持ち始めるきっかけになったそうです。「小学校3、4年だったかなと思いますが、馬に初めて乗って、怖いというよりも面白かったです」。
そこから将来は騎手になりたいという気持ちが芽生え、馬術部のある高校に進学。卒業後は乗馬クラブで住み込みのスタッフとして働いた後、20歳から大井競馬場での生活をスタートさせました。最初は調教専門厩務員として調教を専門で乗る仕事をしながら、時には厩務員さんのようにパドックで馬を引くことも。地方競馬の騎手になるためには栃木県那須にある地方競馬教養センターに入所し、2年間の学びを経てから騎手試験を受けることが一般的ですが、松﨑騎手は一発試験(筆記と実技の試験)という制度での騎手試験合格を目指していたため難易度も高く、何度も受験を重ねて悲願の合格を果たしました。
27歳で騎手デビューをし、そこから約20年の月日が流れました。レースでの騎乗機会はそう多くはありませんが、調教は毎朝2時過ぎから行い、自身がレースで騎乗する馬以外にも、調教パートナーとして乗り続ける日々。
そんな松﨑騎手に大きなチャンスが回ってきました。
~20年目で初タイトルを獲得~

マルカンラニは高野厩舎の生え抜き馬。新馬戦後は休養に入り、復帰後から松﨑騎手とのコンビが始まりました。その経緯について高野調教師は「特に大きな意味はなかったですが、松﨑騎手の最近の勝ち星はうちと挙げているようですし、その流れからですね。いつも調教も真面目に丁寧に乗ってくれますから」とコメント。
普段のマルカンラニはライオンのような激しい気性の持ち主で、松﨑騎手の最初の印象も「乗る前から跳ね回っていたので、厩務員さんもよくやっているなぁと思いました。調教では洗い場まで乗りに行くのがルーティンになっています。そこで跨ってしまえば、そんなにうるさくもないので」。
東京記念を改めて振り返ると、終始、外を回る形で7番手付近を追走。2周目の3コーナー手前から進出していき、最後の直線では後続を引き離して5馬身差をつける圧勝でした。JRA時代に交流重賞を勝ってきた移籍馬たちを抑えてのパフォーマンス。
「レースは展開も向いて、うまくいきました。前は砂をかぶるとイライラしていましたが、今回は1周ずっと砂をかぶっても我慢をしてくれていました。精神的に成長したんだなぁと収穫もあったのでうれしかったです」と、相棒の成長に感慨深げ。さらに、ストロングポイントについては「外に出すと確実に脚を使ってくれる馬。今回は初距離(2400m)で、いつもより前のポジションにいても脚を使ってくれたので、馬に感謝です」とたたえていました。
~報われる瞬間があることを教えてくれた~

どんなに努力をしても頑張っても、報われることが少ない厳しい世界。しかし、地道に続けていけば、いつかは報われる瞬間があることも、松﨑騎手が教えてくれました。ファンの方たちは、レースの最後の直線で「松﨑~!」と大絶叫し、ウイニングランや口取り写真撮影後には松﨑コールが自然と沸き起こりました。枠場に引き返してきた時には、他陣営までもが興奮気味に「おめでとう」と祝福していた姿も非常に印象的でした。
「長い間やっていれば、1回はチャンスがあるんだなって。これまでマルカンラニに乗って負けたレースもあったのに、それでも乗せてくれた馬主さんと調教師に感謝しています」。ひとつタイトルを取ったことで心境の変化については「仕事に関しては特にないです。ずっと一緒」と職人らしい返答。「でも、誇れる勲章ができたことで、多少自信はついたのかなと思います。騎手を続けてきて良かったです」としみじみ話しました。
これまで開催中に騎乗馬がゼロという時期もあったそうですが、そういう試練も乗り越えての20年。数年前に返し馬で落馬をして左肩の関節包が破れた際にはあまりにも痛みが激しく、治らなければ騎手を辞めようと思ったこともあったそうですが、それ以外に騎手を辞める選択肢はなかったそうです。「人より騎手になるのが遅かったのもあるかもしれないし、馬に乗ることが好きなんですよ。モノ好きなんです」とはにかみました。


