JRA育成馬における隊列調教の実践
JRA日高育成牧場では、毎年7~9月にかけて購買した1歳馬および日高育成牧場で生産したJRAホームブレッドに対して、早い群では9月上旬から騎乗馴致を行い、10月上旬から騎乗調教を始めています。獣医師や騎乗スタッフは、各馬の性格や能力を的確に把握し調教メニューを決めていきますが、人馬ともに楽なペースや位置取りで漫然と走るのではなく、足元の負担にも注意しつつ各馬が競走馬として活躍できるように最善の調教方法を考えています。
そのような調教方法の1つに、隊列調教があります。競馬では、馬が一団となって走る場面がほとんどです。馬群の中で落ち着いて走ること、騎乗者の指示に従順であることが競走馬には求められます。レースの場面を想定して日々調教を行っていきますが、その中で位置取りが自由自在であることが必要不可欠であり、それを教えるために隊列での調教が重要となってきます。最終的には個々の馬によって、先行逃げ、追い込み等様々なタイプの競走馬として成長していくことになるのです。今回は、この「隊列調教」に注目して、当場で実践している内容をご紹介します。
隊列調教では、まず集団・一群での運動から始め、次に一列に並んで走行する縦列調教を行っていきます。ここでは前の馬に付いていくことで、まっすぐに走ることや行きたがる馬に我慢することを教え、キックバックによる砂をかぶることにも慣れさせます。また先頭となった馬は、最初は物見をすることがほとんどですが、次第に慣れ自信をもって走行できるようになります。

次に、スピードが求められる段階になってきたら、2列縦隊・併走での調教を実施していきます。左右に馬がいることでお互いの前進気勢を促し、その中で折り合いやハミ受けを覚えさせます。最終的には隣の馬と鐙が当たる程に距離を詰めていきます。

さらに、競馬のレースを意識した実践的なトレーニングとして3列縦隊での調教も行っています。前後左右に馬が密集しているので隊列を崩さず走行することは難しく、育成牧場スタッフの高い騎乗レベルによって行うことができています。GⅠレースでジョッキーカメラの映像をご覧になった方も多いと思いますが、3列縦隊での調教時にヘルメットに装着したGoProで撮影された動画は、まさにレースさながらの臨場感です。

これら隊列調教のポイントとしては、馬の位置取りを変えていくことです。常に同じ馬が先頭や最後尾を走るのではなく、毎日走る位置を入れ替えることで、様々な状況や場面に対応できる能力を養っていきます。
毎年4月に開催されるJRAブリーズアップセールでは単走での走行ですが、いざ競馬に出走した際にはこのような隊列調教で培った精神力を武器に各馬が活躍してくれることを期待しています。

日高育成牧場
業務課 水上寛健