アイルランドにおける放牧地管理【牛と羊を用いた管理】

北海道では長かった冬が終わり、放牧地に緑が増え過ごしやすい季節になってきました。JRA日高育成牧場では、親子馬を含む多くの馬が夜間放牧もしくは24時間放牧を開始しており、馬達が長い時間放牧地で過ごすようになりました。良質な牧草の摂取と運動場所の確保のために、どこの生産牧場でも放牧地の管理に工夫を凝らして行っていることと思います。

筆者は、昨年2月までアイルランドで研修をしましたので、現地の放牧地管理方法についてご紹介します。アイルランドはヨーロッパの島国で、北海道と同程度の面積、人口をもつ小さな国ですが、世界第3位の軽種馬生産頭数を誇っています。北海道より高緯度に位置しますが、冬は北海道ほど寒くならず積雪もほとんどありません。そのため、放牧地は冬でも青い草が生えており、馬の放牧管理をするには最適な気候となっています。
現地の放牧地管理について、面白い方法が一般的に行われています。それは牛や羊との混合放牧もしくは交互放牧です。混合放牧とは、馬と他種の動物を一緒の放牧地で同時に放すことです。写真のように、繁殖牝馬や育成馬などが牛と仲良く放牧されているのを現地ではよく見かけます。また、羊は馬が使用しない時期に馬の放牧地に放す交互放牧に用いられることが多いです。現地には羊のリース業者がおり、牧場は業者から羊を一定期間借り受け放牧地に放します。
このような他種との放牧のメリットは大きく二つ考えられています。一つ目は、寄生虫対策です。馬に罹る寄生虫の主なものである円虫、回虫などは、罹患馬の体内で成長し、産卵した卵が糞便中に排出されます。虫卵は、円虫では放牧地で孵化し感染幼虫となり、回虫では虫卵内に感染幼虫が成長し、それらを他の馬が摂食することで感染が広がります。これを防ぐためには、放牧地の糞を拾うことで感染源となる虫体数を減らしたり、ハローで糞を散らすことで糞便中の虫卵や幼虫を乾燥させて死滅を促すなどします。これらの寄生虫は、馬に寄生し病気を起こすことがありますが、牛や羊が食べても感染しないため数を減らすことができます。また、寄生虫対策でまず行われるのは定期的な駆虫薬の投与ですが、薬の効かない耐性虫の出現が問題となります。その点、この方法では耐性虫の発生を心配する必要がなく優れた方法と言えます。
二つ目は牧草の管理上のメリットです。馬は放牧中の大半の時間、生えている牧草を食べて過ごしますが、短めの草を好んで食べます。食べられず伸びすぎた部分は残り続けてしまう(不食過繁地)ため、これを正すためにちょうど良い長さに刈る「掃除刈り」を頻繁に行わなければなりません。こうした中、牛は馬より長い草も食べるため、牛との混合放牧によって掃除刈りの頻度を減らすことができます。また、羊は雑草など短い草を食べてくれます。体重が軽いため放牧地を痛めないことから、特に降水量が多く、ぬかるみやすい冬でも利用することができます。
今回はアイルランドにおける牛や羊を用いた放牧地管理についてご紹介しました。日本とは気候や牧場運営のスタイルが異なることから導入は難しいかもしれませんが、良い放牧地管理のヒントになれば幸いです。
日高育成牧場
調査役 竹部直矢