セレンの抗酸化機能について

はじめに

 ミネラルは、5大栄養素(炭水化物、脂肪、たんぱく質、ビタミン、ミネラル)の一つですが、他の栄養素と比べて必要とされる量はとても少ないです。ミネラルの中でも、カルシウムやリン、ナトリウムなど比較的多く必要なものは「マクロミネラル」と呼ばれます。一方、銅や亜鉛のように必要な量がごくわずかなものは「微量元素」と呼ばれます。微量元素は必要量が少ないにもかかわらず、体の中で大切な役割を果たしているため、不足することのないようにする必要があります。今回は、この「微量元素」の中から、抗酸化機能を持つセレンを取り上げます。

活性酸素と抗酸化作用

 セレンの抗酸化機能について説明する前に、まず活性酸素について少し解説します。活性酸素という言葉は多くの方がご存じかもしれませんが、具体的にどのようなものか理解しているでしょうか。動物は体内でエネルギー、正確にはATP(アデノシン三リン酸)を作り出すために酸素を必要とします。酸素はエネルギー生成の過程で使われ、最終的には水に変わります。この過程の中で、一部の酸素が電子などと結びついて生じるのが活性酸素です。活性酸素には有害なイメージがありますが、実際には細菌などから身体を守る免疫の働きも持っています。ただし、「活性」という言葉が示すように、活性酸素は他の物質と反応しやすく、細胞膜やDNAを傷つけてしまうことがあります。そのため、活性酸素が体内で多く作られると、組織を破壊してしまう有害な物質となります。具体的には、活性酸素によってスクミ(労作性横紋筋融解症)や蹄葉炎などの疾患を発症するリスクが高くなることが知られています。

 生体内の抗酸化物質は、活性酸素と反応して自らが身代わりとなり、組織の破壊を防ぐ役割を持っています。特に運動やストレスによって活性酸素が多く作られるため、抗酸化物質の働きはとても重要です。体内で抗酸化機能を発揮する物質はさまざまありますが、特にビタミンEやセレンは強力な抗酸化物質として知られています。

セレンは強力な抗酸化物質

 生体内でセレンは、エネルギーの利用や成長を調節する甲状腺ホルモンの代謝、そして筋肉を健康に保つために必要です。しかし、セレンが特に重要なのは、非常に強い抗酸化機能を持つことです。セレンは、体内で働く強力な抗酸化酵素、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の構成成分として不可欠です。

 ポニーに、飼料1㎏あたりセレン0.02㎎(低セレン給与)を与えた場合と、0.22㎎(通常セレン給与)を与えた場合で、抗酸化機能に及ぼす影響を比較した成績が報告されています。給与開始から2~3週間後、通常セレン給与では低セレン給与よりもGPx活性が高くなりました(図1(a))。免疫グロブリンは、体内に侵入したウイルスなどの異物を排除する役割を持ち、健康にとって重要な物質です。この免疫グロブリンをつくるB細胞は、活性酸素によって壊れやすいことが知られています。しかし、通常セレン給与では低セレン給与よりも血清中の免疫グロブリン濃度が高く(図1(b))、セレンの抗酸化作用によってB細胞が守られたためであると考察されています。

有機のセレン給与は有用か?

 ミネラルは、そのままの状態では正確には「無機ミネラル」といわれます。一方、アミノ酸などと結合させたものは「有機ミネラル」とよばれます。「有機ミネラル」として摂取する理由は、無機ミネラルの状態のとき他の物質と結合して消化管での吸収が阻害されやすい一方、アミノ酸などと結合した形では消化管での吸収率が高くなるためです。セレンは無機の状態では比較的吸収率が低いことから、有機の状態で利用することがよく知られています。酵母にセレンを取り込ませてつくられたセレン酵母が、セレンの有機形態の製品として流通しています。

 有機セレンと無機セレンを馬に給与し、その効果を比較した成績が報告されています。スタンダードブレッドを用いて、セレンを給与しない群(Se給与なし)、無機セレン給与(無機Se給与)、有機セレン給与(有機Se給与)に分けて、4ヵ月間試験をおこないました。血漿中セレン濃度は、Se給与なしに比べて無機Se給与群と有機Se給与群で高くなりました。ただし、無機と有機の間にはほとんど差がありませんでした(図2(a))。

 同様に血中GPx濃度も、Se給与なしに比べて無機Se給与群と有機Se給与群で高くなりましたが、無機と有機の間にはほとんど差がありませんでした(図2(b))。

セレンは補給する必要のある栄養素なのか

 セレンは抗酸化物質として役立つミネラルであると説明しましたが、飼料にセレンを意図的に追加する必要があるか考えてみます。セレンの必要量は、飼料(乾物)1㎏あたり0.1㎎とされています。つまり、各飼料のセレン含有量が0.1㎎/乾物1㎏以上あれば、基準を満たすことになります。しかし表で示した通り、天然の飼料は大豆粕やフスマを除き、その多くが0.1㎎/乾物1㎏以下であり、天然の飼料のみではセレンの必要量を下回る可能性が高いといえます。一方、市販の配合飼料にはセレンが多く含まれており(85種類の平均で1.39㎎/乾物1㎏)、配合飼料の種類や与える量によって変わりますが、メーカーが推奨する分量を与えていれば、セレンが不足する心配はほとんどないと考えられます。

おわりに

 セレンは動物にとって欠かせない栄養素であることは間違いありません。しかし、必要以上の摂取は避ける必要があります。したがって、もしセレンを主成分としたサプリメントを補給するのであれば、栄養計算ソフトなどでセレンの給与量をしっかりと把握することが推奨されます。

日高育成牧場
首席調査役
松井朗