電気牧柵を利用した放牧管理

 12月も半ばを過ぎて、日高地方もすっかり寒くなりました。近年は暖冬になってきているとは言うものの、雪が降り積もり朝の出勤時に車の窓が凍っている様子を見ると、厳しい北海道の冬の到来を実感してしまいます。

 日高育成牧場で繋養している繁殖牝馬や当歳馬たちは、寒さが厳しくなる時期までは昼夜放牧で管理しています。馬達が一日の大半を過ごす放牧地の使用方法については、各牧場の皆様も頭を悩ませていることと思いますが、放牧地の適切な広さについては、馬の使用用途や健康状態、放牧地のコンディションなどによって異なり、時に既存の放牧地を狭く区切って使用したいケースもあります。このような場合に、本年は電気牧柵を積極的に使用してみましたので、使用したケースを使用感とともにご紹介していきます。

①太りやすい馬のダイエット
  ~あて馬、ハフリンガーの場合~

 当場で繋養しているあて馬のスワロー号(牡、15歳)ですが、基本的に24時間放牧で管理をしています。特に牧草が豊富な時期になると、毎年体重が増えすぎてしまい、蹄に痛みが出るなど問題が起きていました。これを予防するためには、放牧時間を短くしたり、ウォーキングマシン運動を実施したりしてきましたが、太りやすい体質もありなかなか痩せてくれない上に、このような管理には手間や馬房の準備などコストもかかります。最終手段は口かごの装着ですが、馬にストレスがかかる上、口の周りに擦り傷ができるなどトラブルも起きやすいため、使用に注意しなければなりません。

 そこで本年は同馬の放牧地(約0.7ha)を電気牧柵で1/3程に区切ってみました。設置初日に馬に電気が流れていることを覚えさせると、その後は柵に近づかないようになりました。なお、牧柵は簡単に移動することができるので、馬の状態や草の減り具合などを確認しながら広さを調節することができます。この結果、今シーズンは体重が増えすぎることなく適切な体重をキープすることができ、跛行も示さずに過ごすことができました。

②疾患馬の管理
  ~繁殖牝馬、蹄骨々折症例の場合~

 次は蹄の骨折を発症した繁殖牝馬です。発症から時間が経ち跛行は良くなったものの、まだ再発や悪化のリスクが高いため、広い放牧地に放すのは時期尚早な状態でした。そこで本馬にも電気牧柵を使用し、3m四方程の小さいスペースを放牧地内に作り、日中放牧を行いました。これにより、放牧地に茂っている牧草を食べることができるため、ストレスも軽減し馬体のコンディションも上げることができたと思います。また、同馬は馬房内休養をしていた時期に便秘疝を発症しがちでしたが、この放牧に切り替えてからは一度も便秘することなく過ごせました。

 なお、狭い面積に放牧していると一日で牧草は食べつくされ地面も踏み荒らされてしまうため、毎日場所を移動しなければなりませんが、電気牧柵は軽いので、移動をするにもそれほど手間がかからず実施することができました。


 これらの例のように、電気牧柵は簡易に放牧地を好きな広さに区切ることができる上、移動も簡単なため非常に有用です。ただし、馬が興奮して突破してしまったり、強風等で柵が破綻してしまうこともあります。前述の骨折馬のケースでも、馬が尻っぱねをした際に柵が倒れ、脱走したことがありました。このケースでは大事には至りませんでしたが、疾患の悪化につながる恐れもありました。設置する環境や天候、利用する馬の性格なども考慮にいれて、使用の可否や柵を二重にするなどの安全対策を検討することが必要と感じております。

日高育成牧場
業務課 調査役
竹部直矢