香港ジョッキークラブにおける装蹄について①

 近年、多くの日本調教馬が海外国際競走に出走し目覚ましい活躍を見せています。

 筆者は2017年に香港国際競走に出走する日本馬に帯同し、香港ジョッキークラブ(以下HKJC)の装蹄について視察を行う機会を得たのでここで紹介します。

香港の競馬場について

 香港にはシャティン競馬場(写真1)、ハッピーバレー競馬場(写真2)の2つの競馬場、そして18年、中国広東省に放牧休養や調教可能な従化トレーニングセンターを建設。近年、名称を従化競馬場と変更し馬券発売を伴わないエキシビション開催も行われ、今後定期的な開催も示唆されています。

 香港馬はシャティン競馬場にある3階建ての厩舎で管理され、開催のある競馬場まで輸送し競馬が行われています。25年現在、1300頭余りの香港調教馬のうち約70%がシャティン競馬場にある厩舎に在厩。残る30%が中国広東省にある従化競馬場に在厩しています。

 香港競馬では競走馬の生産が行われておらず、オセアニアやヨーロッパ諸国から輸入した競走馬(外国での出走経験があるものを含む)に頼っています。そのため種牡馬や繁殖牝馬は必要ありません。牡馬も種牡馬にすることはないのでセン馬にします。セン馬にすることで気性がよくなったり、体が柔らかくなったり、現役生活が長くなったりとメリットもあるようです。

HKJCにおける装蹄体制

 17年当時は、43名のHKJC装蹄師が所属しており、この人数で競走馬約1200頭、乗馬約700頭を装蹄するということで、1人あたり45頭程度を担当することになります。香港では1人あたり55頭を超えるとHKJC人事部から装蹄師を増やすように連絡を受ける点は、HKJCが労働管理面ではホワイトな企業であることが垣間見えます。

 HKJC装蹄師の組織はHead Farrier(イギリス人)1名、その下に2名のMaster Farrier(イギリス人・オランダ人)がおり、それぞれ競走馬、乗馬の装蹄の総括を任されています。また、主任のような立場を務めるSenior Farrierが3名(香港人2名・ニュージーランド人1名)、と残り37名(香港人)の装蹄師で構成されています。

 HKJCでは数年に一回の装蹄師の昇進試験が行われます。課題の造鉄技術や装蹄の練習も日々行っています。しかし、香港人装蹄師はどんなに頑張って昇進してもSenior Farrierまでと厳しい現実が見えました。

平常業務

 HKJCでは、装蹄師ごとに担当する厩舎が決まっており、装蹄道具や蹄鉄も、厩舎に置かれて台車に乗せて移動します(写真3)。4歳以上のセン馬がほとんどであるHKJCでは、従順な馬が多く装蹄は馬房内でタイチェーンに繋がれた状態で装蹄師1人だけで行っていました(写真4)。

 レースで使用できる蹄鉄には規格があり、4蹄の蹄鉄重量が2ポンド以下(約900g以下)で蹄鉄の下面に突起が無い蹄鉄に限ります。また、接着装蹄は事前申告が必要であり、発走時刻2時間前以降に接着装蹄が落鉄した場合は、JRAと同様に釘での装着が試みられるか、釘での再装着が困難な場合は競走除外になります。


 今回はHKJCHの装蹄について掲載しましたが、次回は17年に行われた香港国際競走やハッピーバレー競馬場での開催における装蹄師の情報などお伝えしたいと思います。

日高育成牧場
専門役 能登拓巳