分娩予測の新しい指標~乳汁の電気伝導率~

 馬の分娩は、短時間に進行するため、対応が遅れると母子ともに大きなリスクを伴います。そのため競走馬生産の現場では、分娩日予測に基づいて分娩に立ち会って分娩事故に備えることが一般的です。

 過去の分娩予測には、乳汁中のCaイオンが利用され、現在は乳汁中の㏗やBrix値が広く利用されていますが、さらなる精度向上を目的に研究が行われています。今回は分娩予測の新たな指標として「乳汁中の電気伝導率」について紹介いたします。

 電気伝導率とは、液体中の電気の通りやすさを示す値で、乳汁中のNaイオンやKイオン、CaイオンやClイオンなどの電解質の変化を総合的に反映するものです。

 2023年にMagalhaesらは、妊娠末期の牝馬114頭を用い、乳汁の電気伝導率が分娩予測に使えるかどうかを調査しました。その結果、分娩が近づくにつれて値が低下し、分娩予測の精度も現在の乳汁㏗と同等以上であることが分かりました。

 2024年には、同じグループが241頭の牝馬を対象に、より大きな規模で調査を行いました。この研究では、妊娠末期の牝馬から乳汁中の、電気伝導率、㏗、Brixを測定して、24時間以内に分娩するかどうかを検討しました。その結果、電気伝導率は㏗やBrixよりも「24時間以内に産む馬」と「産まない馬」を区別する力が高いことが分かりました。具体的な数値として乳汁の電気伝導率が4.8mS/㎝以下に低下すると24時間以内に産む可能性が高くなることが明らかとなり、電気伝導率(4.8mS/㎝以下)に㏗(6.4以下)も組み合わせることで、「24時間以内に産む」予測精度が現状生産地でよく使われている㏗(6.4以下)とBrix(23.6%以上)を組み合わせた場合よりも向上することが示されました。

 これらの報告から、電気伝導率はこれまで使われてきた㏗、Brixと同等以上の予測精度であり、㏗と併用することでより精度が向上すると考えられます。生産現場では「今夜は特に注意が必要か」「夜間の見回りを強化すべきか」といったことが気になりますが、その場面で乳汁㏗に加えて電気伝導率も確認できれば、より安心して分娩監視体制を組むことができるかもしれません。

 ㏗やBrix同様、個体差や搾乳方法などによる影響は今後検討が必要であり、JRA日高育成牧場でも今シーズンから乳汁電気伝導率の変化を調査しています。上記2つの研究報告でも用いられた電気伝導率計(LAQUAtwin EC-33B HORIBA)を試していますが、センサー部分に1~2滴の乳汁を滴下し測定ボタンを押すだけの操作ですので非常に簡便に電気伝導率を測定できます。今後、新しい分娩予測の方法として、生産牧場の心強い助けになるかもしれません。

日高育成牧場
生産育成研究室
主査 浦田賢一