香港ジョッキークラブにおける装蹄について②

 前回の「香港ジョッキークラブ(HKJC)における装蹄①」では、HKJCの装蹄体制や平常業務について紹介しました。今回は第2弾として、ハッピーバレー競馬場での開催見学とシャティン競馬場で開催された香港国際競走における装蹄師業務に関する見聞についてご紹介させていただきます。

ハッピーバレー競馬場開催

 ハッピーバレー競馬場では、毎週水曜日にナイター競馬が行われています。1日に4つのG1競走が開催される香港国際競走の開催される週は、世界の招待騎手によるインターナショナルジョッキーズチャンピオンシップが開催され、日本からは戸崎騎手が出場しました(写真1)。

 競馬開催で執務する装蹄師は3名で、発走地点およびパドックでの執務をHKJCの装蹄師が各1名で行い、その2名を総括する形でHead FarrierあるいはMaster Farrierが執務します(写真2)。今回、シャティン競馬場からの輸送中に両後を落鉄した馬がいましたが、開催に執務する装蹄師が対応するとともに、開催委員に報告されていました。その後、獣医委員による歩様検査を受け、出走の可否が決定されます。なお、ゲート裏で落鉄した場合であっても、放送やテロップは流れず、ファンに明確に落鉄の事実が伝えられることはないと聞きました。

 HKJCでは、蹄鉄を確認する際に肢を挙げての確認を実施していません。これは、すべてHKJCの装蹄師によって装蹄が行われており、事前に多くの情報を把握できているから問題ないということでした。一方、JRAでは、開業装蹄師による装蹄が主であるため、蹄鉄検査係が競走当日に装鞍所で全頭の蹄鉄を確認する必要があります。

香港国際競走

 日本馬を含む外国馬は、シャティン競馬場内にある検疫厩舎に入厩します。検疫厩舎へ入る際は、パスポートでの本人確認を行った上で個人IDを発行し、バイオメトリクス照合システム(手のひら承認)を通過し中に入ることができます。厩舎を出る際も同様の手順を行わなければいけないので、セキュリティは万全に行われています(写真3)。

 外国馬の調教は、検疫厩舎に隣接する角馬場(100×50m)、1周1555mのオールウエザー馬場および1周1899mの芝馬場で行われます。芝馬場の使用は滞在中2回までと制限されているため、オールウエザー馬場中心で調整されることになります(写真4)。Head Farrierのブラウン氏からは、香港馬もオールウエザー馬場で調教されるため雨が降った後には硬く締まり、クッション性に乏しいことで、裂蹄や挫跖を発症する馬が多く見られると聞きました(写真5)。HKJCにおいては、馬を長期休養させるという選択肢が少ないため、裂蹄についてはワイヤーやエクイロックス、裂蹄防止バンドなどを用いた処置を行い、調教を継続する場合も多くあります。また、蹄病馬にはハートバー蹄鉄やリムパッド蹄鉄などの特殊蹄鉄を装着する場合もあり、今回の視察でも多く見られました。ハートバー蹄鉄は蹄叉型アルミニウムバーをSuper Sound蹄鉄に溶接しています(写真6)。これにより、蹄踵部に直接受ける衝撃を蹄叉でも緩和するこができます。

レッツゴードンキ号の落鉄

 レッツゴードンキ号は競馬の4日前の午後、馬房内で左後肢の落鉄が確認されました。落鉄した蹄釘により蹄底に3カ所の踏創が見られましたが、出血は止まっていました。落鉄や装蹄の対応は、事前に申請を行った装蹄師とHKJC装蹄師のみ許されます。今回はHKJCのMaster Farrierのガイ装蹄師(オランダ人)が落鉄の対応を行い、翌日には日本から担当の装蹄師により改装が行われ無事に出走することができました(写真7)。

出走前検査

 HKJCにおいては、全出走馬に対して競走前日の出走前検査を課せられます。検査は性別確認、マイクロチップ番号の照合による個体確認に引き続き、速歩による歩様検査と下肢部の触診が行われます。日本馬は問題なく検査を通過しましたが、外国馬1頭が再検査されることになりました。再検査された馬は、両前蹄に接着蹄鉄が装着されており、両前肢の展出不良と指動脈拍動の強勢が目立つという理由で、硬地に加えて砂地での歩様検査が複数回実施されました。結果としては、検査を通過しましたが、地元の香港馬であれば通過されなかったかもしれないという話も聞かれました(写真8)。

おわりに

 2回にわたって、日本とは多少異なるHKJCの装蹄体制や状況について紹介しました。私自身、装蹄技術に関しては「これが正解」ということは無いと考えています。今回紹介したことが、読者の皆さんへ護蹄の参考になれば幸いです。

日高育成牧場
専門役 能登拓巳